元版は1993年刊となる短編集。
収録されている作品は不可能興味を持つものばかりですが、必ずしもそれが主眼ではない、というのがいかにもこの作者らしい。
「石の棺」 古代の石棺の呪いによる事件という、怪奇趣味と不可能状況を絡めた一編なのだが、実にさらりと纏め上げられている。亜愛一郎ものにも共通するような、とぼけてユーモラスな語りが快い。
「蛇の棲処」 毒蛇を使った殺人というテーマといい、使われているトリックといい、一つ間違えば古臭くなりそうなもの。それが、微妙に現実感が希薄な文章によって読まされてしまう。まさに筆力によって成立しているミステリではないかしら。
「凶漢消失」 作者自身が語り手となって、奇妙な書物の謎が紹介される。すれっからしの読者を対象にしたのだろうか、人間消失
そのものを誤導に用いた、大胆な一編。
「トリュフとトナカイ」 どこか夢の中を思わせる雰囲気のドタバタ劇と、その末に起こる車両消失事件。脱力するようなやりとりに裏があって、実にうまい。メイントリックはいかにも奇術的な発想ですね。
「ダッキーニ抄」 舞台は中世ヨーロッパ、魔女狩りが熾烈を極めた時代において、奇術に心を奪われた若者の物語。技術の研鑽がいつのまにか形而上のものへとずれていく趣向がいいですね。
「夢の密室」 密室の謎を扱いながら、夢とリンクさせることで奇妙な味わいが生まれている。この作者のファンなら思わずにやりとする名前も。
飄々とした語り口調の隅々に計算が感じられますな。作品の配列にも妙味があって、洒落に洒落た作品集です。
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