2013-09-16

アガサ・クリスティー「愛国殺人」


怖くて仕方の無かった歯の治療を無事に終えたエルキュール・ポアロは、その日の午後を自宅でくつろいで過ごしていた。ジャップ主任警部から電話があるまでは。聞けば歯医者のモーリイ氏が自殺したというではないか。モーリイにはまるでそのような兆候が見られなかったことを思い返し、訝しむポアロ。だが、それは大きな事件の始まりに過ぎないようだった。

1940年発表の長編。原題は "One, Two, Buckle My Shoe" というマザー・グースの数え歌で、邦題は米版タイトルが元になっています。実際にこの作品はマザー・グース・ミステリなのですが、見立てによる犯罪が行なわれるのではなく、マザー・グースの歌詞にそってストーリーが展開する、というメタフィクションめいた趣向です。

はじまりは疑わしい状況で起こった自殺であって、いかにもクリスティが扱いそうな地味なもの。ところが矢継ぎ早に事件が続いた上に、背後には政治犯の暗躍が仄めかされ、状況は錯綜し始める。はて、これは謎解き小説というより冒険活劇路線の作品なのだろうか?

読み終えてみれば充分にトリッキーであり、その真相はこれまで読んできたクリスティ作品の中でも、最も奥行きと複雑さを持つもので、満足。できればもう少し伏線の量が欲しかったか。にしても、『ビッグ4』などの自作のイメージを誤導に使うという大技は(成功しているかどうかは別にして)凄いね。

社会的なテーマと謎解きを結びつけた意欲作でもありますが、いろいろ盛り込みすぎたせいか読み物としての仕上がりはちと荒めかな。
結末のキレはお見事。

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