2010-11-28

The Monkees / Head


ライノ・ハンドメイドからのモンキーズ特装盤、「Head」(オリジナルは1968年リリース)であります。ちゃんとピカピカ鏡面パッケージになってます。
「The Birds, The Bees & The Monkees」に引き続き今回も3枚組なのですが、純粋に未発表のものが少なく、ネタ切れ気味なのは明らかでして、2枚組にしとけばよかったんじゃあ、という気はします。完全にマニア向けです、これは。


アルバム本編について軽く触れておくと、サイケデリックの時代を反映したようなアレンジのバラエティに富んだ(実際、曲によって演奏パーソネルがバラバラですが)、しかも質の高い曲が揃っています。ただ、シングルが切れるようなキャッチーさという点では後退しているのも確か。
個人的に好みなのはマイケル・ネスミスの格好いいカントリー・ロック "Circle Sky"、キャロル・キング作の牧歌的な "As We Go Along"、ギターで参加したスティーヴン・スティルスの個性が強烈に出た "Long Title" あたり。"Daddy’s Song" は作者ニルソン本人のヴァージョンの方がいいかな。


さて、今回のデラックス・エディション、ディスク1は「Original LP Plus」と題され、オリジナルアルバムの14曲にボーナストラック10曲。ボーナスの多くはステレオのミックス違いであって、さほど面白くないのですが、"Daddy’s Song" に関しては途中でテンポが落ちて、静かに歌われるパートがあって、これは良かった。"Ditty Diego" のチャントのセッションが20分以上あるのは、なんとも。
ディスク2は「Outtakes And Rarities」。このアルバムにはモノラル盤は無かった、と思ったんですが、楽曲については全てモノミックスが収録されています。クレジットが見当たらないので、シングル曲以外はいつミックスされたのものか判らないのだけれど。あとは実際に映画で使われたミックス、収録曲のライヴ・ヴァージョンなど。全23曲。
ディスク3は「Head Open-End Radio Special」。当時、プロモーション・ディスクとして配布されたもののようで、デイヴィー・ジョーンズのインタビューの合間にアルバムからの抜粋が差し挟まれたもの。これは一回聴けばいいかな。

紙ジャケット、ディスク1はちゃんと鏡面仕様になっているけれど、スパインが省略されている
裏面
ディスク2の裏面、よく見ると日本語が
今回のリイシューも音は良いし、紙ジャケットや7インチサイズのブックレット、缶バッジなど、力がこもってはいるのだけれど、アウトテイクが弱いのは痛いなあ。
この「Head」を最後にピーター・トークは抜けるわけですが、残りのアルバムもデラックス・エディションで出すのでしょうか。

2010-11-21

Paul Williams / Someday Man


ポール・ウィリアムズのファースト(1970年リリース)が英国Now Soundsからのリイシュー、ボーナストラック12曲付き。
このアルバムは日本盤CDも持っているんだけれど、今回のは音の鮮度が段違いですぜ。ボーナス曲にはマルチトラックから新たにミックスされたものが含まれているので、アルバム本編もちゃんとオリジナルのマスターから起したのだろうな。各パートがくっきり。
また、ブックレットにはポールとロジャー・ニコルズのコメントを織り交ぜたライナーが読ませますが、詳細なパーソネルがちゃんと記されているのも高ポイントであります。リイシューはこうでなくちゃ。

オープニングのタイトル曲、"Someday Man" がやはり、頭ひとつ抜けた出来。弾むベースと手数多いドラムに導かれウキウキとした気分にさせられる歌い出しから、サビではリズムがシャッフルになり、控えめながら効果的な管弦も入ってきて、ここで早くもお腹一杯なのに更に美味しい転調が待っている、という。何度聴いても楽しいな。
他の曲も水準はクリアしているものばかりであって、どこを切っても良いメロディが。特にミディアム以上のテンポの曲 "Mornin' I'll Be Movin' On" "Trust" "Roan Pony" あたりが、ポールのヴォーカルもあっさり目で好みですね。
アルバム全体に、ベーシックな曲の良さを生かす方向での過剰にならず、けれどツボを抑えた装飾が光ります。ここら辺はアレンジャーのペリー・ボトキンJr.ら、あるいはプロデューサーを務めたロジャーのセンスでしょうか。

ボーナストラックではモノ・シングル・ヴァージョンやデモも嬉しいですが、"Someday Man" と "The Drifter" のバッキング・トラック・セッションが驚き。
特に "The Drifter" はポールのアルバムには入らなかった曲ですが、ここで聴ける演奏はロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オブ・フレンズのものと同アレンジであって。"The Drifter" が元々ポールのアルバム用に録られていた、と考えることもできなくはないですが、この曲のキーはポールには高すぎるように思うのだな(ロジャーとポールのデモ集「We've Only Just Begun」に収録された同曲でのポールのヴォーカルは、テープスピードの操作でピッチを上げたものに聴こえる)。ポールのこのアルバムとスモール・サークル・オブ・フレンズのシングルは、同時に制作がなされていたのではないかと推測されるのだけれど、どうかしらね。

2010-11-18

Gary Lewis / Listen !


プレイボーイズを率いてティーンエイジャー向けシングルをヒットさせ続けていたゲイリー・ルイスも、'60年代後半のヒッピー、ドラッグ、ベトナム戦争の時代にはそれまでと同じような優等生的なキャラクターで明朗なポップソング、というやり方では通用しにくくなっていた(スナッフ・ギャレットの言葉を借りれば「もう君向けのマーケットは無い」ということらしい)。

1967年リリースの、この「Listen!」というアルバムはソロ名義ともあってか、陰影ある、やや落ち着いた感触のオーケストラポップで占められており、オープナーにも乗りのいい曲ではなく、"Jill" というマイナーキーでミディアムスローの曲が置かれている。
プロデューサーにはゲイリー・クレインというひとがクレジットされていますが、実際に現場で腕をふるっていたのはアレンジャーのジャック・ニーチェと(ボナー&ゴードンの)ゲイリー・ゴードンであったそうだ。
選曲も良いのだけれど、とにかくアレンジが繊細かつアイディア豊富であり、メロウな中に淡くサイケデリアを滲ませた、その塩梅がすごくいい。有名曲のカバーも、はっとするような独創的な仕上がりであります。

アルバム内容を反映したジャケット写真も秀逸な、浮遊感溢れるフラワー・ポップ。儚げな雰囲気もまた、たまらない。
しかし、当時のアメリカにはこのような良く出来たソフトサウンディングな音楽が少なからずあったのに、その殆どはセールスが振るわなかったような気がする。時代とは恐ろしいな。

2010-11-16

ポール・アルテ「殺す手紙」


新装丁のポケミス、現代的なデザインのせいで違和感は否めないですが。カバーのビニールも横線のないクリアなものになっているし。まあ、ページの小口が黄色い限りはポケミスということにしておきますか。
ところで、この本はポケミス初の一段組であります。200ページちょっとの作品なので、これで値段が1300円するのはちょっと高いな。

ポール・アルテ、今回訳されたのはツイスト博士が出てこない、ノンシリーズもの。しかも不可能犯罪が起こる本格ミステリでもなく、巻き込まれ型サスペンスといった体です。
けれども、読み終わってみればジャンルとか関係なく、これはポール・アルテの小説でありました、良くも悪くも。

殺人事件が起こった上、ドイツのスパイの因縁が絡み、プロットが二転・三転と急展開。短い物語の中にアイディアがこれでもか、と詰め込まれ退屈することはありません。また、なんだか胡散臭い、裏になにかあるぞという思わせぶりな雰囲気、短い章の終わりごとに必ず驚きが待っている、そういったいつものアルテらしいやり方も健在です。
ただ、本格ミステリなら美点と感じられる部分が今回のサスペンスでは必ずしもうまく嵌っていないという気がします。人工的過ぎたり、古臭さを感じる瞬間もあり、フランス・ミステリの悪い部分が出てしまった感で。

頭からケツまでサービス満点ではあり、個人的には面白く読めました。ミステリとしての芯は一本、通っていると思います。結末は先読みしやすいのですが、丁寧なミスリードはされていますし。ただ、出来がいいとは言えないなあ、やっぱり。
この作家のファンなら楽しめると思いますが。そうでない人は、まず別の作品にあたってからにしてもらうが吉。

2010-11-14

Dyke & The Blazers / We Got More Soul


ジェイムズ・ブラウンと同時代に、その影響を強く受けながらも独自のファンキーソウルを確立したダイク&ザ・ブレイザーズ。彼らの全音源を未発表も含めて網羅した二枚組アンソロジーです。副題に「The Ultimate Broadway Funk」とあるように、殆どファンキー以外の曲調のものを残していないのが凄い。
いかにも長尺のセッションから編集しました、という感じの曲が多いのですが、このCDではもともとパート1、2に分かれていたものはつなげて編集してあるのが嬉しいです。

ディスク1は "Phoenix" と題され、1966、67年に地元アリゾナで制作された楽曲を収録。
彼らの演奏はJBと比べるともっと無骨で大きな乗りです。ホーンやオルガンが緩い感じを出していて、更にダイクのボーカルは少し泣きが入っていて、いなたい雰囲気であります。ベースはダイク自身が弾いていたようなのですが、これも太い音で、いい。
ウィルソン・ピケットのカバーがヒットした "Funky Broadway" が入っておりますが、その他の曲でもアレンジに南部ソウルっぽいセンスも感じられるものが。
また、スローブルースもひとつ演ってるのだけど、それも若干跳ね気味のリズムで料理している徹底ぶりが気持ちいい。

ディスク2は "Hollywood"、1968~70年の録音。名義はブレイザーズのままなものの、実際はハリウッドのスタジオミュージシャンによるもので、ジェイムズ・ギャドスンらワッツ103rdストリート・リズム・バンドのメンバーが参加しています。そのせいか、一枚目とは演奏の雰囲気がガラリと変わり、シャープでソリッド、重量感あるものに。楽器のフレーズは細かくなり、曲構成もそれまでのリフ一発を押し通すものとは違い、変化をつけたものになっています。
そうした洗練されたサウンドをバックにすると、ダイクの若干クサ目のボーカルが対照的に映えて、また格好いい。
中でも、「話しているときでもソウルが溢れてくる 歩いているだけでソウルが溢れ出すんだ」と始まり、サビではレイ・チャールズ、JB、ジョニー・テイラー、アレサ・フランクリン等の名前が歌い込まれる "We Got More Soul" が決まっています。

演奏のキレだけを取ればハリウッド録音なのですが、ローカル録音での温かみあるサウンドや、どこかユーモラスで余裕を感じさせる歌いまわしも捨てがたいな。

2010-11-07

Paul McCartney & Wings / Band On The Run


バーン・オン・ザ・ラン! ポール翁の代表作のひとつ、「Band On The Run」がリイシューされましたよ。僕が買ったのは2CD+DVDのスペシャル・エディション、というやつ。値段が三倍くらいする豪華パッケージ版も出ていて、そちらはCDがさらに一枚多いのだけれど、その内容はこのアルバムの25周年記念盤についていたドキュメンタリー・ディスクと同じらしい。僕は25周年盤も持っているので、まあ、いらないかなと。

CD1は「Band On The Run」本編のみ。リマスターについて触れると、アビイ・ロード・スタジオで行われたらしく、昨年のビートルズと同じく、あまり音圧は上げないものであって、落ち着いて聴いてられます。25周年盤も結構、音は良くなっていたので、それに比べて劇的な向上とは言いませんが。
CD2はボーナスディスクとなっていて、"Helen Wheels" は今回はこちらに入っています。全部で9曲入っているのだけど収録時間は34分であって、これならCD1の後ろにでも全部入るよなあ、なんてせこいことを考えたり。

今更、このアルバムについて言うことはないんだなあ。しいて挙げると、あんまり時代を感じさせない音だよな、くらいか。
レコーディングは何故かナイジェリアのラゴスで行われたのだが、ラゴス行き直前にギターとドラムが抜けてしまい、ポールが一人奮闘して、とかいうことはファンにとっては常識だし、そうでないひとにはどうでもいいことだろう。英米のチャートでトップになり、ポールのアルバムでも特にヒットしたものであります。

それより、今回のリリースの目玉はDVDです。当時のウィングスのクリップの数々や短いドキュメンタリーフィルムに加え、「One Hand Clapping」が。今までブートの粗い画面でしか見られなかったTVスペシャルがクリアな画で楽しめる、そう期待していたのだよ。
しかし実際見てみて、うーん、これは・・・。ブートよりはましかもだが、それにしてもこすった感のある映像。ちゃんとしたマスターなどは残っていないのだろうか。音のほうが凄く良い分、かえって落差が感じられるなあ。


まあ、ポールのアルバムのリイシューはCDというカタチでは、今回のシリーズが最後じゃないか、という予感がするので、今後もあまり期待しすぎずフォローしていきたいとは思います。TVショウの「James Paul McCartney」も出して欲しいな。

2010-10-31

Mitch Ryder & The Detroit Wheels / Detroit Breakout !


ミッチ・ライダー&ザ・デトロイト・ウィールズが1965~68年にNew Voiceレーベルに残した録音をまとめた、50曲入りの二枚組コンピレーションCD。

このバンド、レパートリーの殆どが黒人R&Bのカバーであって、そういう点ではイギリスのバンドがやっていたことの後追いなのだが、とにかく演奏に迫力があって、しかもかなり上手い。荒々しさを演出しながらもコマーシャルである点は外しておらず、ここらはプロデューサーであるボブ・クルーの力なのだろう。バンドのパワフルな演奏が削がれることなく、しっかり録音されているという点も大きいです。あるべき姿がクリアだったのだな。
ミッチ・ライダーのボーカルは勿論、格好いいのだけれど、そのしゃがれ声は色気の方が勝っているような気がします。決して勢いだけじゃない。

どの曲もノリが良く、気分良くかけていられますが、やはり代表曲の "Jenny Take A Ride" と "Devil With The Blue Dress On/ Good Golly Miss Molly" が気持ちいい。聴いていると否応無しに体が揺れてきますよ。
最高のパーティバンドですな。

このCDには、ライダーがバンドから独立した後のソロ曲も収められているんだけど、バンド時代のスタイルを継承したものもあれば、オーケストラをバックに歌い上げているバラードもあったり。時代的にもプリミティヴなスタイルで売っていくのが難しくなってきたのか、やってることは基本的に同じでもアレンジにやや華美なところが感じられたりしますし、二番煎じめいた面もあって、初期と比べるとややテンションが緩いのは仕方ないところか。

芸術的野心なく、刹那の快楽だけを追い求めたロックンロール。あんまりややこしいことを考えずに気楽に聴いてられる、というのがいいですな。