2014-08-09

麻耶雄嵩「さよなら神様」


「個人的には超能力は許容できてもオカルトは許容できない。夜中にトイレに行けなくなるからだ」

2005年に子供向け叢書から出た長編『神様ゲーム』、その続編で、6編からなる連作短編集。
小学生でありながら全知全能の神様、鈴木君。『神様ゲーム』ではもっぱら学校のトイレ掃除をしている目立たない存在だったけれど、今回は文武両道で爽やかなハンサム、女子の人気はもちろん、男子からも一目置かれているというキャラクターに。貴族探偵に寄った、ともいえますか。
収録された各短編は、冒頭で神様が犯人の名前を告げ、それを受けて探偵団のメンバーたちが議論する、という形式で進められます。


「少年探偵団と神様」 あらかじめ犯人は判っているが、フーダニットです。なんだか倒錯しているようですが、そういう構成だよね。非常に限定された構成要素を用いて手堅いミステリを成立させている一方、事件とは直接関係のないトリックが炸裂するのはいかがなものか(面白いけど)。

「アリバイくずし」 容疑者が増えることが逆に事件解決のヒントとなる妙。一方で、推理の前提となる事実認識に甘いところがあって、その穴を突いている感も。

「ダムからの遠い道」 これもアリバイを扱っていますが、いくつかの偶然が重なることで奇跡的に成立したそれであって、およそ作為が感じられないもの。前提が複雑で難易度は高そうに見えるのだが、解決は実にクリア。

「バレンタイン昔語り」 これこそ麻耶雄嵩にしか書けないであろう、読者も登場人物も謎を認識できないミステリ。特殊設定が最大限に生かされて、後味の悪さも絶品。

「比土との対決」 話を追うごとにだんだんと内容が異様なものになってくるな。ここではハウダニットというミステリの形式そのものがミスリードに使われていて、脳がぐらんぐらんするわ。

そして、最後の 「さよなら、神様」 ではこれまでの短編に隠されていた秘密が解き明かされる。なんだか小洒落たまとめ方だなあ。えぐいけどさ。


この作者にしては軽めの仕上がりですが、紛れも無い謎と論理のミステリです。うむ、面白かったぞ。

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