2014-08-14

エラリー・クイーン「ギリシャ棺の謎」


創元推理文庫からのクイーン新訳、その4作目です。いや、この『ギリシャ』は何遍読んでもクソ面白いな。

若い時代のエラリー、その気障ったらしい態度はまるで名探偵像のカリカチュアだが、作品中盤における、故人がつけていたネクタイの色、及び書斎のパーコレイターからの推理は実に読み応えがある。そして、その名推理が(後から判明する事実によって)崩れていく過程からは、現代からすれば名探偵もののパロディのようなニュアンスさえ感じとることができる。シリーズ4作目にして従来の謎と論理の物語に飽き足らず、ここまで踏み込んだのは凄い、と思う。

さて、この『ギリシャ棺の謎』はクイーンの作品ではいちばん長いものであって、普通の長編に近いくらいの分量がを費やして事件はひとまずの解決を迎える。説明のつかない事実をいくつか残しているため、エラリーはもやもやしたものを抱えたままだ。
後半に入り、新たな事実が判明するに至って、再び捜査が動き出す。それに伴いエラリーは生き生きとした表情を取り戻していくわけだが。
エラリーはあくびをした。「サンプスンさん、サンプスンさん、いつになったらそのおつむの中にある灰色の例のものを使うことを学ぶんです。我らが愛すべき殺人鬼殿がそこまで頭が悪いと本気で思ってるんですか?」
すげー嫌な野郎。ちょっと前にその鼻っ柱をへし折られたというのに。

しかし、本当によく出来てるわ。長編2本分の謎解きを重層化させて、しかもそれを(見かけのつぎはぎ感が薄く)弛みないかたちに完成させられたのは、まだ作者が若かったからだろうな。
次作『エジプト十字架の謎』は来年刊行ということで。おっさんになると待つ楽しみ、というのができるのね。

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