2015-08-11
セバスチアン・ジャプリゾ「新車のなかの女」
パリの広告代理店に勤めるダニーは気まぐれに地中海への旅を思い立った。ところが、たまたま立ち寄った場所で何者かに危害を加えられてしまう。さらには初めての旅程のはずなのに、出会う人たちの多くが自分を知っているというのだ。不安が高まるうち、ついには事件が。
『シンデレラの罠』の次に出された作品だそうで。新訳です。
物語はヒロインのダニーによる一人称ではじまります。ダニーは精神的に不安定な面があり、過去には暗い秘密も隠れているようで、いかにも心理スリラーらしい信用しきれない語り手です。彼女は不可解な事態に何度も出くわすうちに、自身の正気を疑いはじめます。
やがて事件に巻き込まれるのですが、果たしてダニーは自分がしたことを覚えていないのか、それとも何者かの罠にはめられているのか。それが計画された罠であったとしても、そもそもダニーが旅に出ることは、誰も前もって予想することはできなかったのだが(連城三紀彦は解説の中で、この謎を雪の密室になぞらえています)。
ダニーが旅の途中で出会う人々が印象的につくられていて、特にそのなかの一人《にっこり歯磨き》が現実にはいそうにない男前なキャラクター。彼に助けられることで、自らの運命から逃避的だったダニーが事件に立ち向かうことを決心。それまで悪夢のなかを彷徨うようなスリラーだったものが、明晰な謎解き小説としての顔をも見せ始めます。
収束部分が長くて少々だれるのですが、読み終えてみれば意外なくらいしっかりと構築されたミステリでした。
人間の醜悪な面も見せながら、結末は爽やか。ここらも洒落てますね。
そうそう、背表紙はともかく、扉部分の内容紹介は先に見ないで読んだほうがいいかな。
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